叔父のこと。恨まれて不幸になっていく私。(亜紀 29歳女性)
趣旨に合うかどうかは分かりませんが、私と叔父に起こったことについて書きます。
私の実家はおじいちゃん、おばあちゃん、長男の父、母、娘の私の5人に加えて父の弟である叔父も同居した6人が暮らす家でした。
叔父は若い頃はヤンチャで薬物で逮捕されて地元に居られなくなり出所後は作家だか俳優だかを目指して上京していたそうですが、上手くはいかず30歳後半で長男の父が継いだ実家に戻って同居を始めました。
当時10代前半だった私は、実の叔父とはいえ良く知らない男の家族が増えたことを快く思っていませんでした。正直、近くに居るだけで少し不快な気持ちさえ持っていました。同居してから叔父は私や友達が通る通学路にあるコンビニでバイトを始めたので、友達にこういう人と家族に居るとバレたくないというストレスも抱えていたのです。
そんな私の態度に気付いているからか、叔父は特に私に対しては遠慮がちでそれがまた私をイライラさせました。
ある日の友達との帰り道、いつもコンビニを避けていたのですが付き合いでどうしても入店せざるをえない状況になりました。
「居ないで欲しい!」「居ても絶対に声はかけるなよ!」
心の中で何度も何度も念じて俯きながら開いた自動ドアを通り抜けました。
「おう、珍しいな!今帰りか!」
祈りも空しくレジから声を掛けてくる叔父。友達は誰?みたいな顔で私を見ています。
「友達が買うものあって来ただけだから。」
「この人は一応私のおじさんで・・・」
最悪な気持ちになりながらそつなく場を流そうと取り繕いました。
「亜紀の友達かー!なんかサービス出来たら良いんだけどおじさん自給安いからなあ(笑)こんなこと言うと、亜紀は家だといつも怖いからまた怒られちゃうかな(笑)」
私の前ではあまり喋らない癖に仕事中だからなのか叔父なりの間違った気遣いなのか、友達にベラベラ余計なことを語りかけています。
苦笑いする友達にも申し訳なく、サッサと会計を済ませて店を出ました。友達はハッキリ言って引いていたと思います。
この友達が亜紀の叔父さんはおかしい、このコンビニでバイトしているなどと学校で噂を流されることが怖くなりました。また、中学生の私にさえこんな風に思われている叔父自身が情けなく腹立たしく感じました。
その日の夜にバイトを終えて帰ってきた叔父に私はブチ切れてしまいました。叔父に面と向かって何かを言うのも初めてだったと思います。
私は友達が居る時に話しかけてほしく無かったこと、それは叔父と家族だと思われるのが嫌だからだとハッキリ伝えました。
「なんで俺と家族だと嫌なの?」
叔父が引きつったような誤魔化すような笑いを浮かべながら聞いてきました。そういうところが堪らなく嫌なのだと思いながら、
「気持ち悪いし、おじさん終わってんじゃん。」
と吐き出しました。一度吐いてしまうとこちらも興奮しているからか言葉が止まりません。
「いい歳なのに仕事もバイトだし、結婚もしてないし、本当恥ずかしい!だいたい、おじさんみたいなのが有名になれる訳ないじゃん!人生完全に終わってるよ!」
正確には覚えていませんがこんな言葉を投げかけたと思います。
その時、家には祖母しか居なかったのですが●●(叔父の名前)は亜紀に何かしたの?とオロオロしていました。
興奮と怒りもあって気持ちが高ぶった私は泣いてしまいそのまま部屋に引き上げました。
2時間くらい経つと叔父が部屋の外から声を掛けてきました。
「今日はごめんな、今度からは亜紀の気持ちを考えて気をつけるから。」
「悪いと思うならとっとと家出て行ってよ!!」
謝ってきた叔父には少し悪いと感じましたが何故か許す気持ちになれず、反射的にまた怒鳴ってしまいました。
「分かった。」
それだけ言って部屋の外から離れていく気配を感じました。
その日は叔父と顔を合わせることもなく、そのまま眠ってしまいました。
次の日、普通の起きて学校へ行き、丁度2限目か3限目の頃だったと思います。授業中に担任の先生が急に教室に入ってきて私を連れ出しました。
「亜紀、すぐ家に帰りなさい」
「叔父さんが病院に運ばれたみたいだから」
叔父さんが病院に運ばれたとしか先生は言いませんでしたが、すぐに家に帰れという言葉と昨日のことを思い出し悪い予感が全身を包みました。もう、何が起こったのかだいたい分かったような気がしましたが信じたくない。とにかく早く帰らないとと思い、急いで家に向かいました。
家に帰ると祖父と祖母だけが居り、父と母は叔父と一緒に病院に行ったとのことでした。叔父は昨日の夜か今朝の明け方に自室で首を吊っていたそうです。
祖父と祖母は泣いていました。病院に行ったとしか言いませんが、亡くなってから搬送されたのだということは十分に伝わる話ようでした。
呆気に取られている私を祖母が廊下に連れ出し、
「昨日のことは私は誰にも言わん。」
と言いました。
そして叔父の部屋のテーブルの上に置かれていた紙を私に見せました。おそらく首を吊る前に叔父が書いたのでしょう。真っ白な紙の真ん中に二文字。
「亜紀」
と私の名前だけが書かれていました。
私は見た瞬間に全身に電流が走ったようになり倒れこみました。
その後、叔父は亡骸となって帰宅し数日後に親類だけで葬儀が行われました。
私はその辺りのことは靄がかかったような記憶で良く覚えていません。
祖母は叔父が書いた私の名前のことは他の家族にはずっと黙っていてくれました。
祖父も父も母も、将来の展望がない叔父が自殺したとしか思っていないようでした。
それはそうかも知れませんが、背中を押したのは私です。きっかけを作ったのは私です。
「亜紀」
叔父は私の名前を最後の瞬間を迎える前にどんな気持ちで書いたのか、考えると後悔と恐ろしさで頭がおかしくなりそうになります。
私は大学入試に失敗して躓き、就職も上手くいかずフリーターをしています。20代前半に子宮の病気をして子供が生めなくなりました。結婚は諦めていませんが、それを承知で貰ってくれる人は居るのかなと不安になってきます。
定職にもつけず独り身のまま年齢を重ねていくと、これは叔父が最後の時に心から私を恨んで恨んで死んでいった呪いなのではないかと思うようになりました。
幽霊などはあまり信じていませんが人を恨んで呪うということは特別な儀式などはいらないのだと思います。
身に起こる不幸を呪いに結びつけているのか、本当に叔父の恨みによるものなのかは分かりませんが、
きっと私は死ぬまであの
「亜紀」
という叔父の字が忘れられません。
岩手県 亜紀 29歳女